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海上技術安全局 矢部哲
IMOにおける安全基準作りの動きのうち、今後の基準のあり方に大きな影響を与えると思われる主なものを紹介する。
(1)機能要件化と数値基準
1974年海上人命安全条約(SOLAS条約)の伝統的な基準は、そのほとんどが「数値基準」である。船舶の構造や設備の性能については満足すべき数値や数式が、設備については備え付けるべき数量が、規定されている。数値基準は、規制を受ける側からすれば規定通りに船舶を建造し、設備を備え付ければ、基準を満足できるという意味で極めて便利なものである。しかし、数値基準では、基準の制定理由が分かりにくく、また、新技術或いは新たな設計思想に基づく設備、船舶構造についてはそのままでは適用できないという欠点もある。
最近の基準の見直しでは「機能要件(Functional Requirement)」を規定する傾向にある。本年1月に発効した高速船コードには多くの機能要件が規定されている。また現在見直し作業中のSOLAS条約第?−2章(防火)でも機能要件化を図ることとされている。
機能要件の例を挙げる。高速船・コード第4章(居住設備及び避難の手段)の4・8(脱出時間)では、「脱出のための設備は、最初の火災検知及び消火活動のための7分間を差し引いた後、第7.4.2項で規定される高火災危険場所の構造的防火時間の3分の1の時間内に、統制された状態の下で、退船が行われるように設計されなければならない。」と規定されている。難解な言葉で書かれているが、平たく言えば、例えば、ある高速船の機関区域のような火災危険度の高い場所の耐火性の隔壁や仕切を、火災に曝らされても52分間は構造上の破壊が生じないように設計した場合は、旅客や乗組員の脱出経路の長さや幅の設計は、(52−7)÷3=15分間以内に脱出できるように行わなければならないと言うことである。この例では、脱出経路の要件と防火構造の要件との間でトレードが認められていることになる。
機能要件にはメリットも多いが、デメリットもないわけではない。メリットとして、?基準の考え方、制定理由が容易に理解出来ること、?事業者は、「機能要件」基準を満足する限り、自由な設計、或いは新たな機器の開発を行うことが出来ること、が挙げられる。しかし、技術力のない事業者にはかえって分かりに

 

 

 

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